【3418】 ○ シェリル・サンドバーグ (村井章子:訳) 『LEAN IN(リーン・イン)―女性、仕事、リーダーへの意欲』 (2018/10 日経ビジネス人文庫) ★★★★ 《再読》

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「●上司学・リーダーシップ」の インデックッスへ ○経営思想家トップ50 ランクイン(シェリル・サンドバーグ)

女性のためのキャリア指南書。男性が読んでも啓発される要素は多い。

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LEAN IN: 女性、仕事、リーダーへの意欲』['18年/日経ビジネス人文庫]

 本書の著者は、財務省で首席補佐官、グーグルでオペレーション担当副社長を歴任した後、現在はフェイスブックのCOO(最高執行責任者)の地位にある人です。こうした著者の華々しい経歴から、本書は、スーパーウーマンが自らの成功体験をもとに、常人には真似できないようなことを書いた自己啓発書かと思われがちですが、実際に読むと、著者自身、自らのキャリアが恵まれたものであることを認めつつも、現在の地位にたどりつくまでにさまざまな苦労や葛藤があったことが、実に赤裸々に、時にユーモアを交え描かれています(本書は2013年刊行の単行本の文庫化で、個人的には再読になる)。

 まず、アメリカ社会において女性が仕事をしていくことがいかに困難かを、社会の仕組みだけでなく、働く女性の心理面からも分析し、女性はもっと「怖がらなければできること」をやるべきであり(第1章)、男性に自分の意見を無視されようとも、まず「同じテーブルにつく」ことが大事だと。「できる女性は嫌われる」という風潮はまだ根強くあるが(第3章)、そうした中で、アドバイスとして、キャリアを梯子ではなくジャングルジムにように考えること(第4章)、良きメンターを見つけること(第5章)、建前でなく本音でコミュニケーションすること(第6章)、どうしても辞めなければならないときまで会社を辞めないこと(第7章)、男性パートナーがもっと家庭のことに積極的に参加するよう仕向けること(第8章)、完全無欠のスーパーママ神話を捨てること(第9章)を挙げています。また、より平等な環境をつくるために皆が声をあげること(第10章)女性同士が力を合わせること(第11章)を提唱し、「対話を続けよう」として本書を締めくくっています。

 著者によれば、男女差別はアメリカ社会の中にも隅々まで根付いていて、優秀な女性たちは、自分たちの優秀さについて一種の罪悪感を抱いており(著者自身、ハーバード大学で最優秀学生の1人に選ばれた際に、「優秀な女は嫌われる」という思い込みから、周囲にはそのことを隠していたという)、女性たちはまず、この内なる敵と闘わなければならないのとしています。

 その上で、「キャリアは梯子ではなくジャングルジム」「笑っていれば気分が明るくなる」「ロケットの座席をオファーされたらまず座ってみる」「正直なリーダーになる」「完璧を目指すよりもとにかくやり遂げること」という「5つのマインドチェンジ」を提唱しています。

 女性がキャリアで成功する上での障害と、それを取り除くためにどうすればよいかということについて多くのページを割いていて、報酬の交渉をする際のポイント、夫を協力的なパートナーにするためのコツや、子供が生まれるまさにその時まで仕事を辞めてはいけないというアドバイスなど、いずれも具体的かつ有用なものばかりです。

 単に声高に女性の権利を主張するのではなく、本当に必要なのは相互理解であり、女性は女性で、まず出来ること、やるべきことをやりましょう、と言っているように思えました。その上で著者は、「いまこそ私は、誇りをもって、自分をフェミニストと呼ぼう」と宣言しています。結婚や出産といったライフイベントを機に、キャリアを諦めてしまう女性が多いのは日本も同じであるという、データに基づいた指摘もあり、アメリカ国内だけでなく、世界の女性に呼びかけているところに、メッセージ性、発信力のスケールの大きさを感じます。

 著者は本書を自分の領域でトップに就く可能性を高めたい、全力でゴールを目指したい、そう考えている女性に向けて書いたそうです。女性のためのキャリアの指南書として読めるばかりでなく、男性にとっても、一緒に働く女性のことを考える契機となる本であり、また、男女を問わず、キャリアやリーダーシップに関する示唆に富むものとなっています。更に、女性リーダーのロールモデルを増やしていくことは、今後の企業の人材活用における大きな課題になっていくことは間違いなく、人事パーソンの視点からみても、啓発される要素を多分に含んだ本であると思います。

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